自動車開発を支えるALMとAI 「Codebeamer」が挑む日本のスプレッドシート文化

米PTCが発表したALMツール「Codebeamer」3.0は、自動車業界の複雑な開発課題に対応すべく、AI機能を搭載した大規模アップデートを行った。
進化する自動車と複雑化する開発 Codebeamerが提供する統合型ALMの価値
近年の自動車は、センサーやディスプレイ、自動運転機能といった高度なソフトウェア機能を内包する“走るコンピュータ”へと進化している。この変化を象徴するのがSDV(Software Defined Vehicle)やOTA(Over The Air)アップデートの普及であり、ハードウェアよりもソフトウェアの開発力が競争力に直結する時代となっている。開発の高速化、コストの最適化、安全性の確保といった要件を満たすには、従来の開発手法では対応が難しい。
PTCが提供する「Codebeamer」は、こうした課題に対応するアプリケーション・ライフサイクル・マネジメント(ALM)ツールである。要件管理からテスト、リソース管理に至るまで、ソフトウェア開発の全工程を一元管理する。特に開発初期段階での要件漏れや仕様ミスを抑制する仕組みは、後工程での手戻りコストを抑えるうえで極めて重要だ。
実際に、欧州ではフォルクスワーゲングループやBMWがCodebeamerを導入しており、大規模かつ複雑な車載ソフトウェアの開発におけるリスク管理の中核を担っている。これらの企業は、ALMツールを単なる管理ソフトではなく、「安全かつ迅速にモビリティを開発するためのインフラ」として位置付けている点が特徴的だ。
スプシ文化からの脱却へ 日本市場での挑戦と、AIによる次世代開発支援の展望
2025年3月31日にリリースされたCodebeamer 3.0では、Microsoftとの協業によりAI機能「Codebeamer AI」がベータ版として実装された。このAIは、過去の要件履歴を元に関連ドキュメントの抽出やテストケースの提案を行い、エンジニアの思考プロセスを支援することを狙っている。現在はベータ段階だが、将来的には開発全体の最適化や品質保証プロセスへの活用も想定されている。
こうした機能は特に、日本市場において大きな可能性を秘めている。国内ではエンジニアがExcelやGoogleスプレッドシートを使って要件を管理するケースが今も根強く、属人化や更新漏れなどの問題が日常的に発生している。この「スプシ文化」の課題に対し、PTCは直感的に使えるUIや日本語対応の強化を進めており、日本の製造業におけるDXの加速装置としての役割が期待されている。
今後の展開としては、日本国内のSIerやコンサルティングファームとの連携を通じた市場浸透が想定されており、パートナーシップの強化が鍵を握るだろう。また、AI機能の本格実装とあわせて、医療機器や航空宇宙など他業種への展開も視野に入れたアップデートが続くと見られる。