マスク氏の競合企業、Precisionの脳インプラントがFDA承認 臨床試験拡大と市場投入に前進

2025年4月17日(米国現地時間)、イーロン・マスク氏が関与するNeuralinkの競合企業、Precision Neuroscienceが開発する脳インプラントデバイスが米食品医薬品局(FDA)から承認を取得した。
これにより、同社は最大30日間の埋め込みを可能とする臨床試験の拡大と、2026年の市場投入に向けて大きく前進した。
“髪の毛よりも薄い”次世代脳インプラント、臨床応用へ現実味
Precision Neuroscienceが開発する「Layer 7 Cortical Interface」(※)が、米FDAより承認を受けた。これにより同社は脳の電気活動を記録・刺激するこのデバイスを最大30日間患者に埋め込むことが可能となった。臨床利用を目的とした初の商用展開が視野に入る。
Layer 7は、厚さが髪の毛以下という超薄型構造に加え、1024個の電極を搭載している。これにより脳の微細な信号の高精度な記録と刺激を実現する設計だ。
現在、37人の患者に対する臨床試験が進行中であり、今後さらに多くの試験を計画している。
特にPrecisionは、言語や運動機能に障害を持つ患者の機能回復を目指しており、デバイスの低侵襲性を強調している。
一方、Neuralinkは2024年に初の人間への脳チップ埋め込みを実施している。技術的先行は認められるものの、透明性や安全性に対する懸念が付きまとっている。
※Layer 7 Cortical Interface:脳表面に接触させて電気信号を記録・刺激するシート型のデバイスで、従来の深部挿入型よりも身体への負担が少ないとされている。
脳インターフェース市場の分岐点 競争激化と透明性への問い
Precision Neuroscienceは、Neuralinkの共同創業者によって2021年に設立され、これまでに約221億円の資金を調達している。これほどの資金が集まる背景には、脳インプラント技術の将来性と、競争が激化する同市場への期待感がある。
脳とコンピュータをつなぐブレイン・マシン・インターフェース(BMI)(※)市場は、今後10年で大きな成長が見込まれており、SynchronやBlackrock Neurotechといったプレイヤーも開発を進めている。
特にSynchronは、Amazon創業者ジェフ・ベゾス氏やMicrosoft創業者ビル・ゲイツ氏の支援を受けており、業界全体がハイレベルな技術競争の段階にある。
その中でもPrecisionの強みは、医療現場での実用化に向けた段階的なアプローチにあるといえる。過度な技術革新を追うのではなく、安全性と低侵襲性を両立させたデザインは、医療機関や規制当局からの信頼を得やすいだろう。
Neuralinkが技術の透明性に関して課題を抱える中、Precisionの着実な実績と計画性は、今後の市場評価に直結すると思われる。
2026年の市場投入を見据えた今後の動きは、各企業にとって技術だけでなく、社会的責任や規制対応を問われる局面に差し掛かっている。
実用性か、革新性か、脳インプラント市場は今、分岐点に立っているのではないだろうか。
※ブレイン・マシン・インターフェース(BMI):脳とコンピュータを接続し、思考や神経信号によって機械を制御する技術。麻痺患者の機能回復や新たなインターフェース開発で注目されている。