韓国大統領選を揺るがす「ディープフェイク注意報」再び発令、民主主義を脅かすAIの影

2025年4月15日、韓国では早期大統領選挙を控え、AI技術を悪用した偽情報拡散への警戒感が高まっているとメディアが報じた。
ディープフェイクによる候補者の中傷が確認され、民主主義への脅威として改めて注目されている。

AI技術が政治空間を侵食、ディープフェイクが選挙戦の「兵器」に

韓国では、大統領選を前にAIによるディープフェイク技術の脅威が再燃している。
2025年4月14日、ある予備候補の選挙対策委員会は記者会見を開き、「該当候補が配偶者に暴言を吐く姿を映したように見えるディープフェイク（※）映像の流布が試みられていると情報提供を受けた」と明かした。
これは、事実と異なる内容を高度に合成した映像であり、有権者の判断を誤らせる危険性が極めて高い。
選対は虚偽・捏造情報が拡散され次第、法的措置を行うと発表した。

韓国では過去にも政治家を標的としたフェイク映像の事例があり、ディープフェイクはもはや「サイバー上の風評被害」では済まされないレベルに達している。
特に、大統領選は全国規模で行われ、候補者数が限られるため、一つの偽情報が選挙結果に重大な影響を与える可能性がある。
こうした背景から、中央選挙管理委員会や警察は、選挙犯罪に該当するディープフェイクの監視と摘発を強化している。

2026年1月には、AI生成物への透かし表示を義務付ける「AI基本法（人工知能の発展と信頼基盤の構築に関する基本法）」が韓国で施行予定だが、現段階ではその効力が及ばず、抑止力としては限定的であると指摘されている。
AI技術の進化に法整備が追いついていない現状が浮き彫りになっている。

※ディープフェイク…AIの機械学習技術を活用して、実在の人物の顔や音声を模倣し、架空の映像・音声を生成する技術。

有権者の判断力が試される時代へ、メディアと社会の責任とは

今回の件を受け、ディープフェイク技術の進化が、政治領域における深刻なリスクとして再認識されたことは間違いないだろう。
一方で、その存在が広く知られるようになったこと自体は、社会的なリテラシー向上の契機となるという点で一定のメリットを持つだろう。

加えて、AI技術が悪用されるリスクが報道されることにより、メディアのファクトチェック機能や、教育現場での情報リテラシー教育への関心が高まる可能性もある。
社会全体の「見る目」が鍛えられる契機となるのは、技術進展の副次的なプラス要素と言えるだろう。

しかし、デメリットはそれを上回る深刻さを持つ。
ディープフェイクは極めてリアルな偽映像を生成できるため、有権者の判断を容易に操作できてしまう。
特に選挙期間中は、限られた時間の中で候補者の印象が定まるため、一度拡散された偽情報が取り返しのつかない影響を与えるリスクが高い。
訂正が追いつかず、有権者の誤解がそのまま投票行動に反映される恐れもある。

重要なのは、AI技術そのものが悪ではなく、いかに社会と制度が適切に向き合えるかが本質的な課題であるという点だ。
技術革新と民主主義の両立が問われるいま、有権者一人ひとりの判断力が、選挙の公正性を守る最後の砦になりつつある。