NTT、ドローンなどのエッジ端末で4K映像のAI推論を可能にする新型チップを開発 2025年度内に製品化へ

NTTは2025年4月11日、4K映像のリアルタイムAI推論処理をエッジや端末上で実行可能にするAI推論LSIを開発したと発表した。
本技術は、米サンフランシスコで4月9日〜10日に開催された技術イベント「Upgrade 2025」に出展した。2025年度内にNTTイノベーティブデバイスにて製品化する予定だという。
4K映像の処理をエッジで実現
NTTが開発した新型のAI推論LSIは、これまで処理の負荷が大きく実現困難だった超高精細映像のリアルタイム解析を、消費電力20W以下という省エネ性能で実行可能にした。
LSIとは「大規模集積回路(Large-Scale Integration)」の略称で、膨大な数のトランジスタを小さなチップ上に詰め込み、特定の計算処理に最適化された電子回路のことである。
今回のLSIは、まさにAI推論を行うために設計された「専用の頭脳」と言える。
解像度は最大4K(3,840×2,160ピクセル)、フレームレートは30fps。
従来のAI推論では解像度やリアルタイム性に問題があり、4Kの高解像度は大きなブレイクスルーとなる。
この性能を実現したのは、NTTが独自に構築した画像処理アルゴリズムだ。
入力された映像をAIが処理可能な小さな単位に分割し、それぞれに物体検出を行った後、縮小した全体像から得た文脈情報と合成して結果を導き出すという手法で、性能を向上させた。
デモンストレーションでは、物体検知モデル「YOLOv3」をベースにしたAIモデルを使用しており、通常は608×608ピクセル程度の低解像度でしか動作しない同モデルが、同等の電力消費で4Kの高解像度映像を処理することを可能にしている。
また、フレーム間の相関分析やビット精度の制御によって、処理負荷を最小限に抑えている点も注目された。
都市空間の可視化からドローン応用まで
このLSI処理によって、高精細映像の解析をローカルで完結できるようになる。
クラウド処理への依存を脱することで、応答速度の向上や通信コストの削減、個人情報保護の強化といった実務的なメリットを得られる。
また消費電力も抑えられることで、バッテリー駆動のモバイル機器への搭載も視野に入り、実用性も兼ね備えていると評価できる。
ただ、今回のLSIはAI推論専用に設計されており、用途が特定領域に絞られる可能性がある。
国際的な競争を見据えると、米NVIDIAや中国Horizon Roboticsなど、既存のエッジAI(※)プレイヤーとの技術的・価格的な差別化が鍵になる。
市場が、特化型の高画質エッジAIにどの程度の価値を見出すかによって、成否が分かれるだろう。
エッジAIチップ市場全体としては、データセンター集中型から分散型AI処理への移行が市場活性の後押しになる。
プライバシー保護のニーズや、生成AIによるリアルタイム処理の高度化が、端末側の演算能力強化を求める方向性を後押しするだろう。
NTTのLSIがこのトレンドの先駆けとして機能すれば、国産半導体復権に一歩進むことができるだろう。
※エッジAI:クラウドではなく、デバイス自体でAI処理を行う手法。応答速度の向上やデータ送信量の削減、プライバシー保護の観点から注目されている。