医療・ヘルスケア、半導体、AI分野で大規模な資金調達 スタートアップ資金調達リサーチ【Week : 9/29-10/3】

10月が始まり、さっそく様々な分野で活躍するスタートアップ企業が資金調達を発表しました。
この記事では、9月29日から10月3日の間にリリースされた、スタートアップの資金調達ニュースをまとめています。さらに、事業内容、調達金額、今後の展望についても詳しく解説します。
超小型・陽子線がん治療装置開発ベンチャービードットメディカル、約13億円の資金調達を実施
事業内容: 陽子線がん治療装置の開発・製造・販売
調達金額: 約13億円
引受先: 特定投資家(FUNDINNO PLUS+経由)
今後の展望: 江戸川メディケア病院に東京都内で初となる陽子線治療センターを設置し、すべての希望する患者が当たり前に陽子線治療を受けられる社会の実現を目指す
ビードットメディカルは、国立放射線医学総合研究所発のベンチャーです。従来3階建てに相当する巨大装置だった陽子線治療装置を、独自の技術により従来比で高さ3分の1、重量10分の1に圧縮する技術を保有。装置の小型化により建築コストを抑え、都市部など従来導入が難しかった施設への展開を可能にしています。
2023年4月には江戸川病院グループと連携し、東京都江戸川区にある江戸川メディケア病院に陽子線がん治療センターを設置することで合意しています。これまで陽子線治療を受けるには他県まで通院する必要があった患者にとって、大きな選択肢の拡充となることが期待されています。

東京大学発の地理空間AI企業LocationMind、49.6億円の資金調達を実施
事業内容: 地理空間AI、位置情報ビッグデータの処理・分析、AIを活用した人流予測サービス
調達金額: 17.9億円(エクイティ約8.5億円、デット約9.4億円)
引受先: 三井住友銀行、FUNDINNO、YMFG CAPITAL、ウィング・キャピタル・パートナーズ
今後の展望: M&Aを含む新たな成長機会を確実に捉え、グローバルに空間情報生成AIの開発を加速する
LocationMindは、東京大学発の地理空間AI企業で、世界最大の位置情報銀行を目指し、人・自動車・船舶・衛星画像などの様々な様式のグローバル位置情報ビッグデータを取り扱っています。米Irysの買収と「pinable」事業買収によるAdvertisementMindの設立を機に、現在では150か国を超える位置情報を取り扱うまでに成長しました。
Irysの買収により、150ヵ国以上のGPSデータを保有し、GPSビッグデータの垂直統合が進んでいます。また、チャット1つで世界中の人・自動車・船・不動産などの位置情報ビッグデータを活用した高度な空間情報の分析を可能にする空間情報生成AIの開発を、グローバルで展開できる具体的なロードマップが整っています。

100%自然由来の超吸水性ポリマーの開発を手がけるEFポリマー、26.3億円の資金調達を実施
事業内容: 100%自然由来の超吸水性ポリマーの開発・製造・販売
調達金額: シリーズBラウンド総額26.3億円
引受先: インパクト・キャピタル1号投資事業有限責任組合、AgVenture Lab、奄美沖縄投資事業有限責任組合、エマエンタープライズ、北洋SDGs推進3号投資事業有限責任組合、脱炭素化支援機構、共立ホールディングス、マリッサ・エステート・インターナショナル、OLtV Opportunity Fund投資事業有限責任組合、綜研化学、SVG Ventures Sunrise Agri Fund GP、沖縄振興開発金融公庫、TOPPANホールディングス、豊田合成
今後の展望: 持続可能なソリューションのグローバル展開と研究開発をさらに加速し、原料の多様化、資源循環型モデルの構築、農業分野での新製品開発を推進する
EFポリマーは、インド生まれで沖縄育ちのディープテック・スタートアップで、オレンジやバナナの皮など、従来捨てられていた残渣をアップサイクルし、100%自然由来の超吸水性ポリマーを農業資材として製造・販売しています。累計販売は500トンに達しており、5,000トン以上の作物残渣をアップサイクルし、持続可能な農業と資源循環型社会の実現に貢献しています。
フランスやスペイン、イタリア、ポルトガルなど干ばつの影響が出ている地域を中心にEFポリマーの実証を進め、販売拡大を目指しています。また、農業用途に加え、化粧品や日用品向けの原料、保冷剤「Cy-Cool」、吸水シートなど、幅広い分野での応用を推進しており、米国市場における有機資材認証「OMRI」も取得しています。

半導体材料「二酸化ゲルマニウム(GeO₂)」を研究開発するPatentix、約7億1,900万円 の資金調達を実施
事業内容: 超ワイドバンドギャップ(UWBG)半導体材料GeO₂の研究開発および製造販売
調達金額: 約7億1,900万円
引受先: Abies Ventures Fund II投資事業有限責任組合、東レインターナショナル、稲畑産業、NextG投資事業有限責任組合(ケイエスピー)、アイシン、木村商事、京信イノベーションC3号投資事業有限責任組合、中信ベンチャー・投資ファンド7号投資事業有限責任組合、ソーシャルインタラクションデザインファンド(ABCドリームベンチャーズ)、大阪中小企業投資育成、関西みらいサクセスサポート投資事業有限責任組合、デンソー、三菱電機、モバイル・インターネットキャピタル
今後の展望: 研究開発・製造・社会実装の各面での体制を整備し、GeO₂パワー半導体を実用化フェーズへと移行させ、国内外の電力・車載・宇宙用途等の市場において競争力を持つ製品を提供する
Patentixは、立命館大学発のスタートアップで、次世代パワーデバイスに必要とされる超ワイドバンドギャップ半導体材料「二酸化ゲルマニウム(GeO₂)」の研究開発および製造販売を手掛けています。EVの普及やAI向けデータセンターの電力消費量の増大、CO₂排出量削減ニーズの高まりから、UWBG半導体の実用化が期待されています。
GeO₂半導体は、他のUWBG半導体候補には難しいp型n型の両方を実現できることやコスト競争力への期待から、UWBG半導体の中でも近年急速に注目を集めています。2022年12月の創業以来、n型ドーピングの確認、ショットキーバリアダイオード動作実証等の研究成果を報告しており、着実に社会実装に向けて歩を進めています。

健康管理サービスけんさぽ ❘ シリーズAで累計8億円の資金調達を実施
事業内容: 企業の健康管理をSaaSとBPOで支援する健康管理サービス
調達金額: 3億円(シリーズA Extension)
引受先: SIIFICウェルネス投資事業有限責任組合、NTTドコモ・ベンチャーズ、セントラル、ルイ・ボストン
今後の展望: 健康データの解析精度を高め、企業向けの健康経営支援や医療機関との連携強化を目指し、ウェアラブル端末や各種検査データとの連携を進める
Personal Health Tech(PHT)は、企業向けに「けんさぽ for business」を提供しており、100円から始められる健康管理として健康管理システムとデータの入力や予約業務、二次検診の勧奨など、健康診断業務の代行をセットで提供しています。低コストで、企業の抱える健康管理の課題を解決し、健康経営優良法人の認定取得や従業員の健康推進に貢献しています。
今回の資金調達では、SIIFICウェルネスファンドを新たに投資家に迎え、生活習慣病予防や健康寿命延伸に資するサービスとして、社会的課題の解決に直結する点を高く評価されました。今後は利用者一人ひとりに最適化された健康管理を提供することで、生活習慣病の予防や健康寿命の延伸に貢献していきます。

まとめ
9月29日から10月3日のスタートアップ資金調達例をまとめました。
今週の資金調達ニュースでは、医療・ヘルスケア、半導体、AI・位置情報分野で資金調達が実施され、社会課題解決型のディープテック企業への投資が活発化していることが確認できました。特に注目すべきは、ビードットメディカルやPatentixのような大学発ベンチャーが、独自技術を武器に大型資金調達を成功させている点です。
また、EFポリマーやLocationMindのように、グローバル展開を見据えたM&A戦略を積極的に展開する企業も増えており、国内スタートアップの成長ステージが確実に上がっていることが読み取れます。カーボンニュートラル、健康経営、エネルギー効率化といった社会的要請に応える技術への投資が一層加速していくことが予想されます。
「Plus Web3」では、今後も資金調達例を紹介してまいります。