AI・DX・フードテック分野で大型調達相次ぐ スタートアップ資金調達リサーチ【Week : 9/1-9/5】

9月が始まり、さっそく様々な分野で活躍するスタートアップ企業が資金調達を発表しました。
この記事では、9月1日から9月5日の間にリリースされた、スタートアップの資金調達ニュースをまとめています。さらに、事業内容、調達金額、今後の展望についても詳しく解説します。
AI SaaSやFintech、AI・LLMなど複合的に事業を展開するLayerX、150億円の資金調達を実施
事業内容: AI SaaS「バクラク」やFintech、AI・LLMなど複合的に事業を展開
調達金額: 150億円
引受先: TCV、三菱UFJ銀行、三菱UFJイノベーション・パートナーズ、Coreline Ventures、ジャフコ グループ、Keyrock Capital Management、JPインベストメント
今後の展望: エンジニアを中心とした人材採用強化、セールス体制の拡充、AIファーストな働き方を実現する競争力のある報酬体系の構築、AI活用による業務の生産性向上
LayerXは、「すべての経済活動を、デジタル化する。」をミッションに掲げ、AI SaaS「バクラク」事業を中心に展開しています。バクラクは、稟議や経費精算、請求書受取・発行、法人カードなど企業のバックオフィス業務を、AIエージェントによる自動判定や入力補助によって効率化するサービスで、スタートアップから大企業まで累計15,000社に導入されています。2024年には勤怠管理サービスをはじめとした人事領域にも進出し、事業領域を拡大しています。
同社はFintech事業では三井物産等との合弁会社「三井物産デジタル・アセットマネジメント」を通じて、デジタル証券を活用した個人向けの資産運用サービス「オルタナ」を提供しており、国内最多となる計17本のデジタル証券ファンドを組成、累計投資額は250億円を突破しています。また、AI・LLM事業では生成AIプラットフォーム「Ai Workforce」を展開し、三井物産、三菱UFJ銀行をはじめとする大企業への導入が着実に広がっています。今回の調達により、2025年4月にアップデートした行動指針「Bet AI」のもと、全社一丸となってAIの社会実装を加速していく方針です。

コミュニティサクセスプラットフォームを運営するコミューン、55億円の資金調達を実施
事業内容: コミュニティサクセスプラットフォーム「Commune」の開発・提供
調達金額: 55億円(第三者割当増資40億円+ベンチャーデット15億円)
引受先: ファーストライト・キャピタル(リード)、DNX Ventures(リード)、Z Venture Capital、ジャフコグループ、日本グロースキャピタル投資法人、JPインベストメント、日本郵政キャピタル
今後の展望: 「信頼起点経営」を実現するための核心技術の開発・概念の浸透、信頼への投資対効果の定量化、グローバル市場への展開
コミューンは、ビジョンである「あらゆる組織とひとが融け合う未来をつくる」の実現に向けて、コミュニティサクセスプラットフォーム「Commune」を提供しています。同プラットフォームには累計100万人以上の登録者、累計500万件以上の声が集まっており、顧客・従業員との相互コミュニケーションによる信頼構築を通じて、ロイヤルティ・LTVの向上や新商品開発など、事業成長の源泉となっています。前回資金調達を発表した2021年9月以降、月次経常収益は600%成長を達成しています。
同社は今回調達した資金を活用し、これまで「感覚値」や「定性的評価」に留まっていた信頼の価値を定量的に測定し、ROIが試算可能になる技術開発を進めていきます。信頼関係の構築と事業成長への寄与を「可視化」「理解」「育成」「創造」という4つのプロセスに分解し、実行を担うソリューションの開発を行うほか、2022年より米国にも拠点を置き、2024年より本格的にグローバル展開を開始しており、米国市場の顧客を中心にプロダクト・サービスの導入が進み、MRRは前年比490%成長しています。

ミシュラン星付き店にも評価される水産スタートアップさかなドリーム、10億円の資金調達を実施
事業内容: 新規養殖魚の開発・生産・販売
調達金額: 10億円
引受先: Beyond Next Ventures(既存株主)、ゆうちょ Spiral Regional Innovation Fund、Canon Marketing Japan MIRAI Fund、ニッセイ・キャピタル、三井住友海上キャピタル、ちばぎんキャピタル、常陽キャピタルパートナーズ
今後の展望: 新規養殖魚の研究開発の加速、「夢あじ」の量産体制の確立およびマーケティング活動の強化
さかなドリームは、「世界一旨い魚を創り、届ける」を企業理念に掲げる東京海洋大学発の水産スタートアップです。第一の商品として、市場にほとんど出回ることのない幻の魚「カイワリ」と南房総産の「金アジ(マアジ)」を両親に持つ世界初の養殖魚「夢あじ」を生産・販売しており、これまでに実施したテスト販売では、鮮魚小売店で連日即完売が続くと共に、国内外のミシュラン星付き飲食店でも提供されるなど、従来の養殖魚の常識を覆す成果を挙げています。
同社は日本近海に生息する4,000種以上の魚の中から、極めて美味であるものの安定的な漁獲や養殖が困難な「幻の魚」に着目し、探索から販売までを一気通貫で手掛けるビジネスモデルを通じて、これらの魚の「安定生産」と「美味しさの飛躍」を実現しています。今回調達した資金で、新たな研究施設の建設や高度な専門人材の確保を進め、「夢あじ」に続く複数の新魚種を数年以内に発売することで、商品ラインナップの拡充を目指します。

AIを利用しわさびなどの栽培を行うNEXTAGE、2億円の資金調達を実施
事業内容: わさび水耕栽培技術を活用したコンテナ型植物工場の展開
調達金額: 2億円
引受先: ディープコア(DEEPCORE TOKYO 2号投資事業有限責任組合)
今後の展望: 独自AIを活用した栽培管理システムの高度化、わさび栽培技術のアップグレード、組織体制の強化
NEXTAGEは、「テクノロジーを活用して美味しいわさびを世界中に届ける」というビジョンのもと、これまで培ってきたわさび水耕栽培の技術を活かしコンテナ型の植物工場を全国各地で展開しています。わさびは本来、清流や湧水など限られた環境でしか栽培が難しい作物ですが、同社では独自の環境制御技術と水耕栽培システムにより困難とされてきたわさび栽培を閉鎖環境下で実現しました。
同社は今回調達した資金を活用し、センサーや画像解析データを用いたAIモデルによる、温度・湿度・CO2濃度・水質・養分・色相・水位などの自動監視システムの開発を進めます。また、栽培スピードと品質を両立するための新しい培養液制御アルゴリズムの開発や、海外市場を見据えた長期保存・輸送技術の開発にも取り組み、将来的にはわさびにとどまらず、他の高付加価値作物への展開も視野に入れ、「日本発の次世代農業モデル」としてのポジション確立を目指します。

XRゲーム開発のThirdverse、2億円の資金調達を実施し、ハリウッド俳優・プロデューサーのマシ・オカ氏が戦略的投資家・アドバイザーとして参画
事業内容: XRゲームの企画・開発・販売・運営
調達金額: 2億円
引受先: D4V(Design for Ventures)、ユナイテッド、サイバーエージェント・キャピタル、マシ・オカ氏を含む複数の個人投資家
今後の展望: 大型日本IPのソーシャルVR展開、世界的なセレブリティやハリウッド関係者とのコラボレーション
Thirdverseは、『10億人が生活する、新しい仮想世界の創造』をビジョンに掲げるXRゲームスタジオです。日本とサンフランシスコに拠点をかまえ、世界市場に向けたXRゲームによるエンターテイメントを提供しており、9月4日に発表した株式会社サンリオとのソーシャルVRゲーム「Hello Kitty Skyland」など、日本の有力IPを活用したコンテンツ開発を進めています。
今回のラウンドでは、海外ドラマ『HEROES/ヒーローズ』のヒロ・ナカムラ役として世界的に知られ、映画『レディ・プレイヤー1』では日本のIP作品をハリウッドに導入する上で重要な役割を果たしたマシ・オカ氏が戦略的投資家兼アドバイザーとして参画しました。同氏の日本のIPホルダーとの強固な関係性と豊富な業界ネットワーク、国際的な知見を取り入れ、世界的なセレブリティやハリウッド関係者とのコラボレーションを今後進めていく計画です。

まとめ
9月1日から9月5日のスタートアップ資金調達例をまとめました。
今週の資金調達ニュースからは、AI・DX関連企業への大型投資が目立ちました。LayerXの150億円、コミューンの55億円という大規模調達は、AIを活用した業務効率化や「信頼起点経営」という新たな経営概念への投資家の高い期待を示しています。特に、TCVのような世界的なグロース・エクイティ投資家が日本のスタートアップに初めて投資したことは、日本のAI・SaaS企業の国際競争力が認められた証左といえるでしょう。
また、フードテック分野でも活発な資金調達が見られました。さかなドリームの養殖魚開発やNEXTAGEのわさび栽培技術は、日本の食文化を最先端技術で革新し、グローバル市場に展開する新たなビジネスモデルを提示しています。Thirdverseのようなエンターテインメント企業がハリウッドとの架け橋となる人材を迎え入れたことも、日本のコンテンツ産業の国際展開における重要な一歩となるでしょう。これらの動きは、日本のスタートアップエコシステムが成熟し、世界市場での競争力を高めていることを示しています。
「Plus Web3」では、今後も資金調達例を紹介してまいります。