AI・DX・バイオテック分野で大型調達が相次ぐ スタートアップ資金調達リサーチ【Week : 8/25-8/29】

8月も終わりましたが、引き続き様々な分野で活躍するスタートアップ企業が資金調達を発表しています。
この記事では、8月25日から8月29日の間にリリースされた、スタートアップの資金調達ニュースをまとめています。さらに、事業内容、調達金額、今後の展望についても詳しく解説します。
IPとAIを組み合わせた事業を展開するVisual Bank、約11億円の資金調達を実施
事業内容: 漫画やアニメなどのIP(知的財産)とAI(人工知能)の共存を支える「IP x AI Enabler」事業、ビジュアルコンテンツ管理・流通事業
調達金額: 約11億円
引受先: 三井住友海上キャピタル、CDIB クロスボーダー・イノベーション・ファンド、インキュベイトファンド、あおぞら企業投資、SMBCベンチャーキャピタル、W fund等
今後の展望: THE PEN(IP x AI)事業の成長加速、次世代型データライブラリを起点としたIP × AI領域における機能強化・拡張
Visual Bankは、”創造性の黒子”という創業理念のもと、2022年4月にM&Aによる起業により40年以上の歴史を持つイラスト・動画素材配給者のアマナイメージスの全株式を取得することで創業したスタートアップです。日本最大級のビジュアルコンテンツ管理・流通事業を土台として、AI学習用データセットの開発・提供するQlean Dataset事業を立ち上げ、権利処理能力、AI向けデータ構造化技術、高品質かつ大規模なデータマネジメント機能を着実に培ってきました。
現在は経済産業省およびNEDOによる国内生成AIの開発力強化プロジェクト、「GENIAC」プロジェクトの支援を受け、国内のIP産業に特化したAI開発用データライブラリの構築を主導しています。また、株式会社コルク代表取締役の佐渡島庸平氏、株式会社THE GUILD代表取締役の深津貴之氏らと共にジョイントベンチャーを設立し、漫画家の「もっと描きたい!」をサポートするAI補助ツールの開発・提供を行うTHE PEN(IP x AI)事業を始動しています。

料理人のグローバルキャリアプラットフォームを展開するシェアダイン、総額21億円の資金調達を実施
事業内容: 料理人のグローバルキャリアプラットフォーム「CHEF LINK」の開発・運営、即戦力人材のマッチングサービス「スポットシェフ」の提供
調達金額: 21億円
引受先: JIC、DBJ、静岡銀行、みずほ銀行、東日本銀行、三井住友銀行、あおぞら企業投資、みずほキャピタル、三井住友信託銀行、UPSIDER Capital
今後の展望: 「CHEF LINK(シェフリンク)」の開発とマーケティング体制の強化、コーポレートブランディングの強化、金融機関との連携を通じた地域展開、海外進出を含むグローバル戦略の加速
シェアダインは、「食の世界からソーシャルトランスフォーメーションを駆動する」をパーパスに掲げ、2.5万人のシェフが登録する料理人のグローバルキャリアプラットフォームを運営しています。コロナ禍を経てインバウンド需要が回復する一方で、飲食業界では人手不足や採算構造の見直しといった構造的課題が続いており、同社はこうした変化に対応して料理人が自身の目標に沿って柔軟にキャリアを築ける環境づくりを進めています。
2024年10月に料理人専用キャリア支援SNS「CHEFLINK(シェフリンク)」をローンチし、現在は2.5万人以上のシェフが登録しています。即戦力人材のマッチングから長期雇用の支援までをカバーする「スポットシェフ」と併せて、「シェフという職能を中心としたエコシステムの構築」を目指しており、静岡銀行との協業を通じた地域の宿泊・ホテル・飲食事業者の人材不足解消にも取り組んでいます。

AIナレッジデータプラットフォームを提供するHelpfeel、26億円の資金調達を実施
事業内容: 企業のAIを強くする「AIナレッジデータプラットフォーム」の提供、AIナレッジプラットフォーム「Helpfeel」の開発・運営
調達金額: 26億円
引受先: グローバル・ブレイン、SMBCベンチャーキャピタル・マネジメント、JPインベストメント
今後の展望: AIの精度と信頼性を高める「AIナレッジデータプラットフォーム」の本格的な展開、複数のサービス開発推進、海外展開
Helpfeelは、企業内外のFAQやナレッジ共有ツールを通じて多様な業種でのナレッジ活用の知見を培ってきたスタートアップです。700を超えるサイトに導入され、契約の45%を上場企業(グループ含む)が占めるなど確かな実績を積み重ねてきました。生成AIや大規模言語モデル(LLM)の登場により、AIの社会実装が急速に進む中で、「AIが何を根拠に判断しているのか」という視点から、正確に整理されたナレッジデータの重要性に着目しています。
同社の「AIナレッジデータプラットフォーム」は、企業内外の情報資産を構造化し、AIが「迷わず、正しく、速く」情報にたどり着ける環境を構築するサービスです。テクニカルフェローに慶應義塾大学名誉教授の増井氏や「未踏スーパークリエータ」など、第一線で活躍する研究者・エンジニアが集結し、自然言語処理(NLP)、ナレッジグラフ、生成AIなどの先端領域において国内でも類を見ない水準のアルゴリズム開発を継続しています。

合成生物学により希少有用成分の生産を行うファーメランタ、20億円の資金調達を実施
事業内容: 合成生物学により天然由来希少有用成分の微生物発酵生産、物質生産菌株の構築サービス
調達金額: 20億円
引受先: ユニバーサル マテリアルズ インキュベーター、Beyond Next Ventures、Angel Bridge、慶應イノベーション・イニシアティブ、農林中金キャピタル、SMBCベンチャーキャピタル等
今後の展望: 開発パイプライン拡大に伴う研究開発費用、ラボからパイロットスケールへのスケールアップ開発体制の強化、商業化を前提とする事業開発体制の強化
ファーメランタは、植物など天然由来の有用成分を微生物で発酵生産し、次世代のサプライチェーンを構築することを通じて、人類及び地球の健康増進に貢献することを目指す石川県立大学発のベンチャー企業です。同社のコア技術は、合成生物学を利用した産業用人工菌株の構築における統合的な基盤技術で、前例のない数にも及ぶ20以上の外来遺伝子を1菌体に導入し適切に発現させることを可能とする多段階遺伝子導入技術を特徴としています。
製品開発パイプラインは創業当初の医薬品原料1テーマから現在では10テーマ以上に達し、一部の化合物については既存市場の製品単価を下回る実用生産収量をラボスケールで達成しています。2025年7月にはEXPO 2025 大阪・関西万博に出展し、微生物で生産したトマト抽出物の有効成分である発酵リコピンを展示するなど、合成生物学による技術がもたらす新しい産業の意義について社会受容性の向上にも取り組んでいます。

株式会社CaTe シリーズB 1stクローズで15.8億円の資金調達
事業内容: 心疾患患者に対する運動療法を始めとした心臓リハビリを自宅で行うことができる心臓リハビリプログラム医療機器の研究開発
調達金額: 15億8千万円
引受先: 未来創生3号ファンド(スパークス・アセット・マネジメント)、みずほキャピタル、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ、トーカイ、サムライインキュベート、ジャフコ グループ等
今後の展望: 社会実装に向けて検証的治験を開始、組織体制の一層の強化、新規事業開発
CaTeは、「”Exercise is Medicine”の理念と文化が浸透した、より健康的で活気ある社会を創造すること」をミッションとして掲げ、心疾患患者に対する運動療法を始めとした心臓リハビリを自宅で行うことができる心臓リハビリプログラム医療機器の研究開発を行っています。心疾患は国内2位・世界1位の死亡者数であり、退院後1年間の再入院率は3人に1人、死亡率は7人に1人と重症化率の高い疾患ですが、日本においては外来心臓リハビリへの参加率は約7%と低い状況にあります。
2024年には同社のプログラム医療機器を用いた特定臨床研究が終了し、主要評価項目である6分間歩行距離ならびにPeak VO2の改善割合について、既存治療の外来心臓リハビリと比較して同等の有効性を持つ可能性が示唆されました。安全性については本研究に関連した心血管イベントは認めず、継続率についても明確に高い結果が得られており、遠隔心臓リハビリシステムの早期社会実装に向けた基盤が整っています。

まとめ
8月25日から8月29日のスタートアップ資金調達例をまとめました。
今週の資金調達ニュースでは、AI・DX・バイオテック分野での大型調達が際立ちました。特にVisual BankのIP×AI領域、HelpfeelのAIナレッジプラットフォーム、ファーメランタの合成生物学技術など、従来産業の課題解決に先端技術を活用するスタートアップが投資家から高い評価を得ています。これらの企業は単なる技術提供にとどまらず、権利処理やデータ品質、生産効率といった産業の根本的な課題に取り組んでおり、持続可能なビジネスモデルの構築に成功している点が注目されます。
また、シェアダインやCaTeのように、社会課題解決と収益性を両立させるソーシャルインパクト型のスタートアップも順調な資金調達を実現しており、ESG投資の浸透とともに投資家の関心が高まっています。医療・ヘルスケア分野では特に、エビデンスに基づいた効果検証と社会実装の両輪で事業を推進する企業が評価される傾向にあり、今後もこうした分野での大型調達が続くことが予想されます。
「Plus Web3」では、今後も資金調達例を紹介してまいります。