2026年7月8日、キリンホールディングスとファンケルは、サプリメントの錠剤設計を支援する「錠剤設計AI」を共同開発したと発表した。熟練研究者の経験に依存していた製剤設計をデータ駆動型へと転換し、開発期間の短縮を図る。
経験値からデータ駆動へ AIが数万通りの処方を高速予測
キリンホールディングスとファンケルの両社は、これまで蓄積してきた豊富な製剤データを活用し、次世代型の「錠剤設計AI」を構築した。
サプリメントの錠剤開発においては、喉に引っかからない飲み込みやすさ、輸送中の破損を防ぐ適切な硬さ、体内で速やかに成分が溶け出す溶解性といった、相反しがちな複数の物性を同時に満たす必要がある。
従来は熟練研究者の勘や経験、そして膨大な回数に及ぶ試作と試行錯誤に頼らざるを得なかったが、新技術の導入によりこのプロセスが一新される。
開発されたAIモデルは、過去の研究データや製造実績を包括的に学習しているのが特徴だ。
人間の手では網羅的な検討が極めて困難である数千から数万通りもの処方条件の組み合わせを、AIが高速かつ高精度に予測・比較検討する。
これにより、成分を目的に応じて届けるための製剤技術分野であるDDS(※)の知見と融合し、より早く溶ける、あるいはより小さく飲みやすいといった最適な設計が短時間で導き出せるようになった。
実戦力としての精度を確保するため、キリン中央研究所がAIモデルの構築やアプリ開発を主導し、ファンケルの研究員との対話を通じてノウハウの形式知化を進めたという。
原料の物性値や製造条件といった物理情報をAIへ統合したことで、単なる概念実証に留まらない、実際の研究開発現場で即座に機能するシステムが実現した。
すでに本研究成果は、2026年4月に製剤分野の国際学術誌「Pharmaceutics」に掲載され、その新規性と有効性が学術的にも高く評価されている。
※DDS:ドラッグ・デリバリー・システム(Drug Delivery System)の略称。薬物や栄養成分を、体内の狙った部位へ、必要な量、適切なタイミングで効果的に届けるための先進的な製剤技術分野を指す。
人とAIの共創がもたらす開発変革 品質安定化と素材創出の未来
今回の錠剤設計AIの導入は、製品開発の現場における業務効率化と品質向上に多大なメリットをもたらすと期待されている。
属人化しがちだった設計品質が一貫して保たれるため、担当者の習熟度に関わらず安定した製品品質を実現できる。
さらに、最適な処方を迅速に割り出すことで試作回数が劇的に減少し、開発期間の短縮のみならず、研究開発段階で発生する原料ロスの削減にも直結する見込みだ。
一方で、AIによる予測は過去の学習データに依存するため、全く新しい未知の素材や特殊な製造環境においては、予測精度が低下するリスクも否定できない。
そのため、AIの提示する選択肢を過信せず、最終的な品質評価や予期せぬトラブルへの対応には、人間の研究者が持つ高度な五感や現場での判断力が引き続き不可欠になると予想される。
ファンケルの機能性食品研究所長である足立知基氏は、開発の難航時にアプローチを切り替えるべきかの判断に迷う場面が多かったと振り返りつつ、「AIと人が共に考えることで、これまで以上に自信を持って製品開発を完了できるようになる」と、人とAIの共創によるシナジー効果に強い期待を寄せている。
キリンは長期方針「KIRIN Digital Vision 2035」において、生産性向上と価値創造の両軸を掲げており、今回の成果はその強力な推進力となるだろう。
今後はグループ各社が保有する素材や品質評価などの独自データをさらに掛け合わせ、AIの予測項目を拡張していく構えだ。
先端技術を活用した食から医にわたる領域での社会価値創出が、今後どのように加速していくのか注目が集まる。